「二級建築士製図試験 体験談」 lexy
♪心地よいリズムを刻んで心も揺らしている。この曲はなんというのだろぅ?
鼓膜を擽るBGMに酔いしれながらランチを待っている。
さっきイイ顔の写真の免許申請手続きを済ませてきた。
手元には変換された写真付きの合格通知書がある。
苦悩と不安の表情が映し出された自身の顔は、試験
当日 の鏡を見ているようだ。
辛く長い戦いであった。某資格学校で夜な夜な詰め込んだ学科、
苦悩の連続の製図。同期が1人、また1人と離れていき遂に1人ぼっちになった。
自信も無くしモチベーションも上がらない中、引き寄せられるように最端製図の
ページにたどり着いた。
描き上げる自信はあったが、どーにもエスキースができず。気持ちばかり焦り、
それがイライラに発展、トンチンカンな一式図が出来上がり、ついに元号も
変わってしまった…。
「始めっ!」の掛け声で問題用紙を裏返す。
「透けて見えていたのと大分ちがうな!なんだぁ!こんな所に大樹があるじゃないか。」
声に出さないまでも、怒りに似た感情を抑え気味に一通り目を通した。
敷地幅、接道の位置、玄関の数、スロープ勾配、自動車台数、自転車台数、屋外
施設の確認から建設範囲を出し、主要室を落とし込む。おっと、バルコニーは
インナーに、欠落がないか見直し作図に入った。
4軒の8軒で薄線を引く。「おやっ?大樹に当たるじゃないか!」
鼓動が大きく早くなっていく。シャーペンも落ち着きがない。落ち着け自分、何
か手段があるはず。教室の酸素濃度が薄くなるほど深呼吸をしてみた。
最端製図の引き出しを全て開け、前期の第1課題L型総2階が薄っすら出てきた。
誰かが質問してた、入り隅の柱は通り柱か否か、うろ覚えで最初は○を付けず進めて行き、
耐力壁△を入れていくとどうにも耐震性に不安が残り、最終的に○を付け通し柱6本にした。
後日入り隅柱の件は確認し直すとやはり○は不要であった。
平面図完成、寸法線4方向従来通り、室名書くと共に室の欠落有無、
伏せ図、張りの掛け方向、補強も合わせて再確認する。
続いて立面方向、部分詳細箇所、断面の切断箇所方向、その他細部までもう一度
読み直し再び作図に入る。
静かで無情な時計に目をやる。
まだ2時間ある。
大丈夫、いつも通りやれば描ききるはず。そう言い聞かせ焦る自分を落ち
着かせる。相変わらずシャーペンはいつも通りのしなやかさは無いが少しずつ
走り始め描き終えた。
残り1時間、もう一度頭から問題を読み始め、事務所の応接と多機能便所
は車椅子”対応”と書いてある。
玄関框を細い線に書き直し、式台を消し、其々の床レベルを150に書き換えた。
間に合った!ギリギリだ。
残り5分、どうにも立面に違和感があり見ている。何か寂しいのと、途中書き直
した屋根が目に止まる。屋根の形状おかしいな?あれ!壁面線が 見えない!
水切りが無い……。
「はいそれまで!シャーペンを置いて」
椅子を引く音、製図機のケースを閉じるジッパーの音。規則正しく
回収されていく図面達。横目で見てると結構未完成がいた。
「難しかったかなぁ半分未完成だと助かるなぁ」と考えつつ、
頭の中は立面図の壁面線と屋根形状のことが70パーセント、トイレドア記入漏れ、
階段踊り場の線書き忘れ、耐力壁△の不足、伏せ図関連、
その他が30パーセントでパンパンだった。
一体どれくらい減点なんだろぅ。また駄目かなぁ。
それでも、精一杯描いた。
まさか立面図でやらかすとは思わなかった。何やってんだ俺!。
2チャンネルで色々嗅ぎ回るが、立面図でやらかした人はあまり居なかった。
「そーだよな」自分でも納得できた。「なんとか受かりたいなぁ?」
すっかり落胆していた。以前、従兄弟が言ってたのを思いだす。
「合格すると封書が届くからすぐわかる」…
今年はそれが来るまで確認しなくていい。
そう思い発表当日も見なかった。実際怖いのもあった。
翌日夕方ポストを見ると、請求書とヤフーショッピングからの荷物、そして
例の剥がすタイプのハガキがあった。
また来年か!泣きそうになるが現実なので、ランクを確認した。
あれ?顔写真が貼ってある。
時間が少しゆっくり進んでいる。素直に剥がれたがる蓋を慎重にめくった。
少し離して見ている。細かな文字だが合格の2文字がクッキリ見えた。
{あなたは、令和元年二級建築士試験において○○○知事により、合格と判定さ
れたので、通知します。}
また泣きそうになるが、喜びがそれを押さえ込み窒息しそうになった!
「やった!やっと掴んだ…。」
何度も何度も合格通知書を見ていた。その写真は苦悩と不安に満ちたものだ。
「免許申請書にはイイ顔で撮らなきゃなぁ」そう考えていると
自然と口角も上がっていた。
今日の限定ランチはサケのソテーとイタリアのカタカナを並べた塩味のパスタセットだ。
ワンプレートにサラダとパンも一切れ載っかっている。
少し贅沢させてあげた。ご褒美!
「うん!今日はまた一段と美味しく仕上がってるね!パンももっちり、
グレードアップしてるじゃん。」いつもより饒舌になって、わかりやすい自分が座っている。
可愛いウエイトレスはリーズンは知らない。
帰り際、「何か良い事ありました?」
「うん。限定に間に合って食べられた事が良い事だよ!」
近年で最もイイ顔で答えた。
長らく喉の奥に突き刺さった小骨がやっと取れ、とてもスッキリしています。
長い間、先生方には本当にお世話になりました。ありがとございました。
最端製図の益々のご発展とご繁栄、更にスタッフ皆様のご健康とご多幸を
心よりお祈りいたします。